key of life

BL小説を書いたりしている江渡晴美の日記です。

『クローンは故郷をめざす』

映画とか借りても、よほど片手間な見方をしない限り、2回3回と見返したりはしない方なのですが、これはもう2回見て、もう1回みたいと思いました。幸か不幸かぽすれんなので、とりあえずもう一回見てから返したい。
はっきり言いますが、地味な映画です。派手なBGMもなく、静かだし。そして、「え?」「あれ?」と思うような不思議な場面がいくつかあるのだけど、それについては一切説明がない。
映画や物語の謎に関してきっちり説明されないと気が済まないという人には全く向かない映画だと思うので、勧めませんが、例えば、この映画のエグゼクティブ・プロデューサーであるヴィム・ヴェンダースの映画*1が好きな人はむいてるんじゃないかと思います。
宇宙飛行士・高原は、任務中に死んだ先輩の代わりに宇宙に行くことになり、その際に、もしかの際には自分のクローン再生をしてもらうよう契約をする。その後彼はやはり任務中に事故に遭い、クローンが再生されるが、そのクローンが、弟を亡くしたころの彼の記憶を持って目覚め、やがて病院から姿を消してしまう。歩き続けていたクローンは、ある川の畔で自分のオリジナルの死体と出会う。彼はその死体を背負って、幼いころ母と弟と3人で住んでいた家を目指して歩き始めるのだった。……という話なのだけども。
主人公は、小学校低学年のころに、双子の弟を川の事故で亡くすのだけど、弟は実は先に川に入っていた自分を探すために川に入り、溺れ死んでしまったのだった。自分が弟の死の原因を作ったこと、その死によって母親の心をひどく傷つけてしまったことによって、自分自身深く傷ついてしまっている。彼の左手の甲には川で溺れかけたときについた大きな傷が残っているのだけど、それはそのまま彼の心についた傷を表しているかのようだ。彼がクローン契約をしたのは、縁側で弟の遺品を燃やしているのを見ている際、母親が彼の肩を抱きながら「私よりも早くいっては駄目よ」といった言葉にとらわれているからだ。母親の言うとおり、母よりも長く、弟の分も生き続けることが、彼にとっては贖罪になるのだから。
彼がとらわれるきっかけになる、この川の事故の場面が、ものすごく悲しくて、見る度涙が出てしまう。この場面はサイレントなので、余計悲しい。これは私がいま、同じ年頃の子どもを持っているからかも知れないけど。
映画にはクローン再生の技術を研究してる博士が出ているのだけど、この博士も自分の仮説しか語らない。真実は誰も知らない。ただ主人公の周囲で時折不思議な現象が起こる。それが何かは映画が終わるまでなにも解き明かされない。見ている私たちが、画面の中で起きていることを見て、考えなければならない。そう言う映画だとおもう。
私はこのくらい言葉の少ない映画が好きなので、これは是非手元に置きたいと思ったのだけど、実はこれ、いまレンタル限定である。
早く一般売りしてくれ!!


追記
ヴェンダースには『夢の涯までも』という、だらだらしまりのない感じの長い映画があって、「自分の見た夢を録画再生しちゃおう!」という装置を作る人と、それによって自分の夢にとらわれてしまう人が出てくる話なのだけど、私はこの映画を見て、『夢の涯までも』を思い出した。見れそうで見られないものというか、実体のないものの正体を探求するあたりに共通項を感じたのかも。実は私は『夢の涯までも』を一週間のレンタル期間のうち3回くらい見た覚えがあって、はっきり「駄作」と言い切る人もいるし、実際もう廃番みたいなのだけど、この映画そう嫌いじゃないのだった。たしか笠智衆の遺作ではなかったか。

*1:『ベルリン天使の詩』とか『パリ、テキサス』とか、……まあなんでもいいんですが