key of life

BL小説を書いたりしている江渡晴美の日記です。

ひとの居場所

職場にいる、ある年下の女性がここ一週間ぐらい病欠している。週初めにちょっと顔を出したが、やはり具合が良くなくてすぐに帰ったようだった。今の時期は彼女の役割上知っておいた方がいい仕事もたくさんあるので、ここで抜けるといろいろきついんだが、具合の悪いものは仕方がない。あとで出てこられるなら、時間外のフォローをすればいいことなんだが、実は彼女がこのあと出てこられるのか非常に心配しているのだった。
彼女とはだいたい三週間くらい前に、偶然行動をともにすることがあって、その時にいろいろ話をしたんだけれど、今の仕事の関係でかなり精神的に追い詰められているようだった。真面目でいい子なんだけれど、あまり器用ではないし、柔軟でもない。責任感が強くて、仕事を抱え込もうとするわりに上手く処理できないことがあって、そのことで彼女の所属しているチームのリーダーからは時折罵声を浴びせられる。そのリーダーはもともと言葉のきつい人で、冷たくあしらわれるのは彼女に限ったことではないんだが。私たちは一人が複数のチームに所属することが当たり前なので、彼女も別の所属チームを持って居るんだけど、そこでも周囲に上手く甘えられないらしい。ていうか、「だれも助けてくれない」「一人でやらないといけない」と思っているようだった。「まだ経験もないし、上手くできなくて当たり前だから、周りの人に助けてもらった方がいいよ」と言ってはみたのだが、とにかく「自分がちゃんとしないと」と思っているようで、「うん」といいつつ納得しては居ないようだった。
「自分でちゃんとしないと」という考えは間違っていない。出来ない彼女を「だって出来ないんだから、責められても仕方ないよ」という同僚も居て、それもまた当たり前なんだけど、平行線で問題は何も解決しない。
実は私が彼女と行動をともにした約3週間前のある日、スケジュールの打ち合わせをしているときに、彼女がとても些細な勘違いをしていることがわかった。私と彼女ともう一人でその話をしていたんだが、私が「それは……」と彼女の勘違いを指摘しようとしていたときに、突然外野から「同じこと何度もいわせんな!」と怒声が飛んできた。はっとして声の方を見ると、私たちのすぐ後ろに例の(言葉のきつい)リーダーがいたのだった。別に彼に向かって話をしていたわけではないんだが、私たちの話が聞こえてきて、黙っていられなくなったらしい。突然のことで、私たちは言葉を無くしたが、とりあえずショックを受けていた彼女を二人で連れ出して、慰めたと言うことがあった。後日、その場に残っていたひとの話だと、彼はその後も彼女に対する厳しい言葉を漏らしていたらしい。事前に話を聞いていた方としては、「これはやばいタイミングだな。変なことにならないといいけど」と思っていたんだけど。彼女はその後もしばらくは毎日出てきていたけど、ぽつりぽつりと休みはじめて、ここ一週間はほとんど出てこないようになってしまった。
これと同じようなことが前の職場でもあった。頭が良く、気さくな女性だったが、任されている部屋の管理が行き届かないことがあり、チームリーダーにある日怒鳴られた。部屋に人が少ない時間だったから、知らない人も多かったと思うけど。チームリーダーは彼女のことで何度か管理職から注意を受けていたらしい。部屋の管理は任された個人の仕事で、彼はチームリーダーとはいえ、そこまで管理する立場にはない*1。「彼女の部屋がきちんとしていないのはお前のせいだ」と言われて理不尽に感じるのももっともとは思うが。彼はどうもその直前に管理職に呼ばれ、いつものように彼としては理不尽な罵声を浴びせられてきたらしかった。「部屋が汚いから、きちんと整理してくれ」というのはいいとしても、彼はよほど腹に据えかねていたのだろう、その後に「どうしてあんたが部屋を汚くしていることでオレがいちいち管理職に怒られなきゃならないんだ」と、部屋中に響き渡るような声で怒鳴った。聞いていて「あ、終わった」とわかるような勢いと鋭さのある言葉だった。彼女は返す言葉もなく、その後他人の散らかした部屋の片づけを一人でしたらしい。それで次の日から出てこなくなった。一ヶ月半くらいして、体調が戻ってきたから、と、復帰したが、休みがちなまま翌年は責任ある役職を離れ、その翌年の春に転勤していった。新しい職場でも休みがちでいるらしい。
こういう人たちが、今の仕事に向いていない、というのは確かなことなんだろう。出来れば転職した方がいいんだろう。ただ、彼女たちのような人たちが、今後どこにいれば息をつくことが出来るのか、よくわからない。こういう人たちは職場にいらない、向いてないから別の所に行った方がいい、という声は聞こえてくるけど、それはただノイズのない快適な職場を求めているだけの言葉のように思われる。今回のことが問題になって、くだんのリーダーが責任を問われても「なんでオレ?」「あれくらい言われて当然だろ?」と思うだろうし、そんな言葉にショックを受ける彼女の方が問題だ、と、現時点でもとらえられているだろうな。
結局弱い人は社会からはじき出されるしかないんだろうか。
「弱い人を守らなければならない」職場で、こういうことがあるのは悲しい。これが日常茶飯事になるのはつらい。
もうこういうことの絡みで人が死んだりするのも嫌だ。公に出来ないような理由で人を見送るのは本当もう勘弁して欲しい。

*1:部屋の管理はチームに関わりなく個人に任せられているもの。それに彼が管轄しているチームはもともと部屋管理には全く関わりない仕事を受け持っている。もう数年前のことになるが、この管理職の怒り方は本当に自分勝手で滅茶苦茶だった。