key of life

BL小説を書いたりしている江渡晴美の日記です。

クローンの悲しみ

A-A’ (小学館文庫)

A-A’ (小学館文庫)

先日のエントリに書いた映画を見てから、萩尾望觥の『A-A’』を引っ張り出して読んだ。
私の手元にあるのは、作品集の二期のもので、他には『4/4 カトルカース』と『X+Y』が入っている。一角獣種という、頭部の中央が盛り上がって、そこに赤いたてがみのような毛が生えている人種が、どれにも登場する。
『A-A’』はその中でもクローンを扱った話。
クローンは情報を記録した時点までしか再生されないし、遺伝子情報にはオリジナル育成時の外傷などが記録されない(ということになっている)ので、怪我をした記憶が残っていても、再生されたクローンの身体には一切外傷がない、ということになる。死んだオリジナルと再生されたクローンの間に生ずる微妙なずれが、この話を切ないものにしている。


クローンは故郷をめざす』では、オリジナルの高原が宇宙空間に放たれてしまったその時、病床にあった彼の母親が死んでしまう。一体目のクローンは病床の母まで思いが及ぶことはなかったけれど、二体目のクローンは、妻と顔を合わせてすぐに母の容態を尋ねる。宇宙へ向かう前までの記憶しかない彼は、その後の母のことは当然わからない。妻は彼の前でただ泣くしかない。
私はその場面を見ながら、「母より長く生きなければならない」「生き続けなければならない」と「生きること」にとらわれていた高原は、母の死を知った途端に、もしかしたら壊れてしまう*1のではないかと思い、はらはらしてしまった。だけどよく考えると(よく考えなくてもそうか)クローン再生出来たことで、彼は母の言いつけをきちんと守ることが出来たことになるのだから、壊れる必要はないのだよね。
それにしても、なにか虚しい気持ちになったのではないかとは思うのだけど。

*1:精神的に