key of life

BL小説を書いたりしている江渡晴美の日記です。

『25時のバカンス』

25時のバカンス 市川春子作品集(2) (アフタヌーンKC)

25時のバカンス 市川春子作品集(2) (アフタヌーンKC)

先日久々に本屋に行った際に購入。
表題作や『パンドラにて』は一部雑誌掲載時にも見ていたのだけど、雑誌だと印刷の関係か、紙質の関係か、非常に読みにくかったのだけど、単行本だと落ち着いて読めた。
前の本*1の時にも書いたかも知れないけれど、一度パラパラ見ただけでは、画面内に何が描かれているかも含め、話がつかみにくい。
で、「人間ではないものがヒト型をとること」とか「人間ではないもの(と同時に滅び行くもの)と人間の交流」というのは引き続きの設定としてあるのだけど、今回表題作では、「人間であったけれど、(そして依然として外形的には人間だけれども)人間ではなくなったもの」というのが出てくる。あまり書くとネタバレにもなるけれど、この「人間を捨てた」西乙女というヒロインが人間として相当魅力的*2。つとめていた製薬会社の研究室が閉鎖になるのに伴って、弟と休暇をとることにした西乙女は、洋服や靴などをたくさん買い込み、弟の到着前に、鏡の前で服をあわせて見ながら、「ああ、似合わない」と呟く。そして「意味がわからない」と呟き、ベッドに倒れ込む。基本的に研究ばかりで一日も休みを取らない、普段はよれよれのシャツのままでデスクの下に寝転がる日々の彼女には、ファッションは興味のあるなしどころか、理解の範疇外。「似合わない」というのは本当に似合わないわけではなく、そう言う服を身にまとう自分に違和感があるのであり、どの服を着ることが良くて、どの服が良くないのかということが理解できないし、そもそもどうでもいいたぐいのことでしかない。こういう人間は小説やマンガに都度都度現れるので別に珍しくはないのだけど、その彼女が作中で見せる、彼女なりの愛情の示し方が非常に不器用で、ばからしいながらキュートに見えるのである。
 また、彼女が体内に宿している深海の生物たちが、一見グロテスクなのだけれど、市川さんは、この深海生物や、無機物などを非常にチャーミングな存在として描くことが出来ている。実際のところ、この本を買ってから何度か時間のあるときにこの本を開いているのだけれど、大体、人間ではないものたちのチャーミングな振る舞いを見るためだったりする。そう言えば、『虫と歌』の時には、やっぱり同じような理由から『日下兄妹』ばかり読み返したのだった。
 札幌在中の方なので、もう少し地元書店でもプッシュしては?と思うのだけど、今回の新刊フェアも都心部が中心なのだった。残念。

*1:『虫と歌』

*2:興味深い、面白い的な意味で