key of life

BL小説を書いたりしている江渡晴美の日記です。

お蔵だしヨンスミ

遙か昔に書いたヨンスミ(※ヤンスミではない)。
もう、ただの馬鹿ネタです。永夏も伊角もありえないくらい馬鹿。
タイトルは「bathtime blues」といって、いろいろな人たちで風呂にまつわる話を書こうと思っていたようだが、頓挫しています。
きっとこの手のものはサイトに入れることはないと思うので、日記でさらっと流してしまおうかと……。

実は韓国の風呂事情がよく解らないんですよ。
どうも公衆浴場はミストサウナに近いらしくて(垢擦りしたりするし)、湯船につかるようなものではないようなんですが、その辺はさくっとスルーして頂けると幸いです。

どんな馬鹿ネタが出てきても大丈夫、という勇気のある方は、下へどうぞ。



 外出から戻った永夏は、頼まれていた買い物をダイニングテーブルに置くと、そのまま自室に戻ろうとした。
『あ、永夏』
 それを呼び止めたのは、彼の姉である梨花だった。
『なに?』
『日本から来ているあなたのお友達ねぇ、まだお風呂から出てこないみたいなんだけど……』
 梨花は苦笑している。
『あなたが出かけて間もなくからだから、随分になるんだけど。のぼせていたりすると大変だから、ちょっと様子を見てきてもらえない?』
『ああ。そう。……わかった』
『なんだったら、あなたも一緒に入ったら?あなたも長いんだから』
 からかい半分の姉の言葉に、永夏はさほど表情も変えず、『そうだね。そうする』と答えて、バスルームへ向かった。

 胸を押さえ、深呼吸をして永夏はバスルームのドアをノックした。
「伊角さん……」
 顔がにやけそうになるのを必死で堪えながら、扉を開ける。立ちこめる湯気に迎えられ、永夏は息を詰めながら風呂場に足を踏み入れた。
 伊角はぼんやり湯船に浸かっていた……ように見えたのだが、永夏が近寄ってみると、伊角は妙に真剣な顔つきで空を睨むようにしていた。ぎょっとした永夏が、黙って見下ろしていると、伊角はその内永夏の存在に気がついた。
「あ、永夏」
 既に逆上せかけているのか、その顔は全体に赤い。その赤く染まった額にたれる汗もそのままで、伊角は彼に微笑みかけてきた。永夏はその笑顔に胸を射抜かれたように感じていた。
「随分長いから、のぼせてないか見て来いって言われたんだけど……」
 永夏が彼の身体から微妙に目をそらしながらそう言うと、伊角は笑いながら、
「ああ、ごめんね。ちょっと考え事していて」
 と言っていた。
「考え事?」
「うん。この間の対局のこと。……あ、君も入る?」
 思わぬ誘いに、永夏は内心ドキドキしていたが、動揺を隠しつつ「……いいの?」と、尋ねた。
「うん。いいよ。……あのさ、対局しない?」
「対局?」
「そう。口頭で」
「コウトウ?」
「どこに打つか口で言い合うんだよ。早くはいる準備しておいでよ」
 伊角に笑顔で促されて、永夏は一度バスルームを後にすると、タオルを腰に巻いたなりでバスルームに戻ってきた。
「じゃあ、オレ身体洗うから、永夏はこっちにおいでよ」
 湯船をでる伊角とすれ違うだけで、永夏はもうどうしようもないくらい興奮していた。
「タオル取らないの?」と伊角に指摘されたが、永夏はとてもタオル無しではいられない状況だった。
「じゃあ、オレ白でいいよ。君からどうぞ」
 身体を洗う準備をしながら、伊角が言う。湯気の向こうの白い身体を意識しながら、永夏は「……じゃあ、右上スミ小目」と、言った。
 伊角の存在が気になって、永夏は対局に集中できなかったばかりか、珍しくのぼせて鼻血を出しそうになってしまった。
 髪を乾かし終えて、永夏が自室に戻ると、伊角はもう既に割り当てられたベッドで眠りについていた。
「伊角さん……」
 呼びかけても返事はない。伊角は満足げな表情ですやすやと寝息を立てていた。一度は治まりかけた興奮が蘇る。永夏は顔を熱くしながらそっと伊角に近づいていった。
 彼が起きる気配はなかった。
 永夏が伊角の頬に顔を寄せると、同じシャンプーと石けんの匂いがする。普段から嗅ぎなれたはずの匂いがこんなに芳しく感じるとは、永夏は思っても見なかった。
(かわいいなぁ、このひと。オレより四つも上なのに、何でこんなにかわいいんだろう……)
 唇が触れそうなギリギリのところまで顔を近づけても、伊角は目をさます気配がない。
(キスしたいなぁ……。て、言うか、触りたい)
 永夏はそっと布団をまくり上げると、中に滑り込んで背中からぴったりと身体を合わせた。
 伊角をおこさないようにそっと腕を回し、ゆっくりと抱きしめる。バスルームで見かけた時にも思ったが、伊角の身体はわりに華奢で、力を入れると壊しそうな気がしていた。
「……ん」
 伊角の口から、ため息とともに小さな声が漏れた。
 急に身体を離したりすると、かえって伊角の目を覚ましてしまう。永夏は彼の身体に腕を回したまま、息を殺していた。
「……だれ?」
「オレ」
 永夏はドキドキしながらそう答えたが、伊角はため息をついただけだった。
「……一緒に、寝てもいい?」
 永夏の問に「……うん」と、答えたあと、伊角は大きな欠伸を一つして「背中、あったかい……」と呟いた。
「あったかい?」
「あったかい。気持ちいい……」
 その言葉に胸を射抜かれたような気持がして、永夏は思わず伊角の身体に回した腕に少しだけ力を込めた。伊角は「……きもちいい」と、もう一度呟くと、また安らかな寝息を立て始めた。
 我慢も限界になりつつある永夏が、伊角の下半身に手を伸ばしかけた時、伊角が「ねえ」突然のように呟いた。
「なんか、かたいのあたってる」
 永夏はギクリとさせられたが、伊角の声が寝ぼけているので、何とか誤魔化そうとしてみた。
「……碁石じゃない?」
碁石?」
「うん……」
「でもあつい……」
「オレが手に握ってたから」
「……そうか」
「そう」
 伊角が何か返事をするかと、永夏はしばらく緊張しながら待っていたが、伊角はそのまままた寝入ってしまった。
 余りに自分に有利に事が運んでいくので、永夏は愉快で仕方がなくなってきた。伊角の身体にぴったりと自分を寄り添わせたまま、永夏はつい笑いを漏らしてしまった。

 危うし伊角慎一郎。彼の貞操はいかに。