key of life

BL小説を書いたりしている江渡晴美の日記です。

しつこいと思いつつ『ヴィレッジ』の話。

こんだけいろいろ考えて、書く気になると言うことは、私はもしかして、この映画がもの凄く気に入ったんだろうか?

例によって、以下はネタバレにつき隠します。
 『ヴィレッジ』のヒロインは盲目で、普段はかなり長めのステッキのようなもの*1を持っており、それを左右に振りつつ歩いていく。方向と歩数で、他人の家を覚えている様子。
 森の怪物が(村に)現れた!という知らせで、その場は解散。みんなわらわらと避難をしていくのだけど、逃げ惑う人々のなかを、なにかにすがるように腕を前に出したところで、彼女の恋人になるホアキン・フェニックスが現れ、さっと彼女の手を取って、走り出す。
 ここがちょっといい感じのシーンなのだけど、これと対照的なのが、映画の後半、二人が恋人同士になってからのこと。
 彼女が不安を感じつつ、杖をかつかつとつきながらホアキンの家に向かうのだけど、歩数が進んでも、いつも自分の手を取ってくれるはずのホアキンが現れない。いつまでも捕まれることなく、腕は虚しく空に突き出されたままで、結局彼の家に着いてしまう。何かあるといつも自分の所へ来てくれる人が、来ないというのは、まあ、結局その当人に何事かが起こったということなわけで……。
 森の中でも、いないはずの怪物の気配に怯え、うっかり落ちそうになってしまった穴を泥だらけになってよじ登り、杖も無くなって、何かを求めるように両腕を前に突き出して、出口へ向かって歩くヒロインの姿が印象的だった。


 突然話は変わるが、『ヴィレッジ』を見ながら、「暗示って恐いなぁ」と思った。
 ヒロインは森の秘密を知っているので、怪物は本当はいないと言うことを知っているはずなのに、カサコソと物音がして、何物かの気配がすると、父親が真実を教えてくれたときにぼそりと告げた「あの森にはもともと怪物がいるという噂があって……」と言う話を思い出して、もの凄く怯えるのである。彼女はその時、父親の言葉とか、おそらく自分がそれまですり込まれてきた森の恐ろしい怪物のことで頭がいっぱいになっていたんじゃないだろうか。
 だからきっと、彼女は、自分が穴に落とした怪物の正体が誰であるか、気付いていないと思うんだよなぁ……。個人的には。

 平和を求めて作られた村で、悲劇が起こり、またそれに連鎖して被害者と加害者が生まれて、結局村は存続するけれど、しこりは残るという……やるせない話である。

*1:手元が傘の持ち手のように丸くなっている。