key of life

BL小説を書いたりしている江渡晴美の日記です。

『遠い星』62

 緒方が何気なくポケットに手を入れたら、指先が小さな袋に触れた。
 取り出してみると、先日楊海から渡されたフォーチュンクッキーだった。渡されたときのことを思い出しながら、彼が物思いに耽っていると、背後から「なんですか」と声がかかった。緒方は振り返り、まだ寝そべっていた伊角にそれを渡した。
フォーチュンクッキー、ですよね。これ」
「お前にやるよ」
 伊角はうつろな目をしてそれを眺めていたが、決心したように封を切り、クッキーを真ん中から二つ折りにした。そして半分を口に入れ、紙を抜いた残りを緒方の方へ差し出してきた。緒方は黙って、それを受け取った。
 取り出した紙切れを、伊角はじっと眺めていた。
「なんだって?」
「“古いアクセサリーを貰うとラッキー”……だそうです」
「なんだ。お前には関係なかったな。アクセサリーなんてつけないだろう」
 緒方は薄く笑い、身支度を再開した。
 帰り支度を終えてベッドから腰を上げたとき、また背後から「先生」と声がかけられた。緒方は振り返り、ベッドを見下ろした。
 伊角は彼に背を向けた姿勢で丸くなっていた。頭からコンフォーターをかぶり、枕の上に黒い毛束が少しのぞくだけになっている。
「ごめんなさい」
 小さくくぐもった声が聞こえた。
 緒方はしばらくその丸い寝姿を見下ろし、コンフォーターを少しずらして、伊角の頭に口吻をした。


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↑のような不純な動機の結果のひとつがこれであるよな。
と、しみじみ。