key of life

BL小説を書いたりしている江渡晴美の日記です。

『こころ』の季節

こころ (岩波文庫)

こころ (岩波文庫)

だいたいこのところ年に一回はぱらぱら見返している。
Kと先生の関係って、なんだろうね。先生の語りでは、なんだかいちいちエロティック。とにかく普通の友達っぽくはない。ていうか、たぶん友達じゃない。もうちょっと違う感じ。
今日、Kが死ぬところについてある人と話をしていたのだけど、その人が、Kが遺書に書き添えた「もっとはやく死ぬべきだのに、何故今まで生きていたのだろう」という意味の文句を、私(=先生)に対する恨みの文句だ、みたいなことを言っていて、もの凄く驚いた。だって、そんなこと、これまで一度も考えたこと無かったから。それに、私が襖を振り返ったときに見た血しぶき。あれも私に対する当てつけ的なもの、とか言われて、更に驚いた。
私はKはもの凄く内省的な人だと思っていたから、手紙の文句もまったく自分自身の心情の吐露だと考えていたし、頸動脈を切ったんだから襖に血しぶき飛ぶのは仕方がないと思っていた。Kはわざわざそんなことをしようなんて画策するほどの人でもないと思っていたし。精神的にはあのひと非常にまっすぐで、堅い木の枝のような人じゃないですか。だからぽっきりいくんであって。Kは割合にすると99%ぐらいはいつも自分のことしか考えていなくて、時々先生のことを5%くらい思い出してるとか、たぶんそんな感じだったんじゃないのかと思うんだよね。先生がKを意識するほどには、Kはたぶん先生のことを意識してはいない。
物語に使われる道具としての血しぶきは、確かに先生に浴びせられたものだったのかも知れないけど、それがKによる意図的なものかと言われると、それはいかがなものかと思ったしだい。
それにそんな風に考えると、先生が後々に考えた、自分とKの共通点みたいなもの(たった一人で寂しくて仕方が無くなってしまった)とあわないような気がするよ。
先生とKが死に向かった原因は、「こうなりたいと思う自分の生き方からいつの間にかずれてしまった」という自分自身に対する無意識の裏切り行為に絶望したと言うことだよな、と改めて思い、「人間はどうして生きていけるんだろう」とか、もの凄い大きな問題まで、今回は考えてしまった。
あと、自分も含めて誰も信用できなくなり、誰にも心を開かないできた先生が、大学生の私に心を開いて、すべてを打ち明ける気になったのって、どうしてだろうとか改めて思った。やっぱ自分が失ったものとか「こうありたかった自分」みたいなものを見ていたのか。ただ単なる根負けとも思われないのだけど。