key of life

BL小説を書いたりしている江渡晴美の日記です。

昨日の続き

『君の夢はもう見ない』というのは、別に仲上とチャンのことが主の物語ではない。
むしろ主軸は、物語中で結局姿を現すことのない、ラウル・ホウと仲上の結びつきだ。
書簡を含むパターンで構成される短編を読み進めるごとに、ラウル・ホウという男の姿が鮮明になり、過去から仲上に再び接近してくるように感じられるのだが、最後には、過去ラウル・ホウと仲上の間に何が起きていたのか、と言うことがある面でははっきりと、しかしある面ではぼんやりとしたまま決別宣言がされ、物語は終わる。前述のように、結局ラウル・ホウは姿を現さない。二人が直接会うことはないというところで、この話に価値を見いだす人もいると思うし、逆に物足りなさを感じる人もいるのではないかと思う。私はどちらかというと、会わなくてよかったのではないか、と思ったかな。
会ってどうする?というものでもないかな、と。これで直接二人で会って、直接決別宣言をする(そこで一悶着起きたりする)、というのも、娯楽作品としては有りだし、むしろその方がわかりやすい展開かも知れないが、これは会わないこと、手紙という一方的な方法で静かに決別が為されることで、物語としての価値が出たのではないかと思う。

仲上の割に単調で平穏な現在の時間を象徴するのがチャンの存在で、それとは正反対の、封印された過去を象徴するのがラウル・ホウ。そんな感じだろうか。

これは、別にシリーズ本作を読んでいなくても、単独で読んでいいものだと思うのだが、これを読んで、仲上愛を深めてから本作に戻ると、もの凄い物足りない気持ちになりそう。そのくらい、作者の仲上に対する愛を感じる。