- 作者: 高村薫
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 1999/05/01
- メディア: 文庫
- クリック: 5回
- この商品を含むブログ (48件) を見る
元警察官を主人公にした短編4編が入っている。身内がらみなどいろんな事情でもって、警察を辞めて、今はそれぞれ警備員とか政治家の運転手とかサラ金に勤めていたりとか。でもみんな警察時代に染みついた習性というか、においのようなものが消せないでいる。表題作では、現役時代には地取りばかりやって来た男が、やめても結局その習性めいたものをやはりやめられないで、まさに「地を這う虫」のように、以前と変わらず周囲を観察しながらただただ歩き回っている姿が描かれている。そして思うような成果は出ず、カタルシスは得られないのであった。
周囲に疎まれたり軽んじられたりしながら、皆非常に地味に、不器用に、しかしなにがしかの矜恃は持ちつつ生きている。そんな話。
合田雄一郎も同じように地味で不器用でやるせない。「地を這う虫」の主人公が毎日見ている風景を区画割りするようにして覚え込み、異変に気付いてゆくと言うところは、「レディジョーカー」を思い出したりした。ということで、高村さんは、こういうどうしようもなく不器用で、一度染みついた習性から逃げられない人間を書くことに意義を感じていたりするのかなぁと思ったりした。
ただ、合田の場合時々プチッと切れて、部屋の中のものをぶん投げてめちゃくちゃにしたり、女を追いかけ回そうとしたり、犯人に刺されに行ったりするあたりが、まったくなんというか、……まあ、なんとも言えないですがね。「お義兄さん!助けてあげて!」と言うしかないというかね……。
一番最初の「愁訴の花」がなんだか切なかった。