key of life

BL小説を書いたりしている江渡晴美の日記です。

ちょっとしたこと

先日実家から美味しいおせんべいをおくって貰ったので、電話を入れたところ、亡父がひさびさに母の夢に出てきたという話をされたのだった。
以前からそう言うことはちょくちょくあって、「小遣い欲しい」と言われて1万円供えただの、「豆腐を食いたい」というから好きだった豆腐屋の絹豆腐供えたとか、そんな話は以前から聞いていたのだけど、今回は「足が冷たいから、くっつけてもいいか」と言われたとか。「寒くなったから、お父さんも足が冷たいのかね」なんてことを母は言っていた。
↑だけ読むと、仲むつまじい夫婦というか、いかにも母が父を愛していたように読めるけれど、実際のところ、父が亡くなる前には、病室でもときおり壮絶なバトルが繰り広げられていたらしい。
表だって喧嘩をしているところなど見たことがないんだけど、同居している子供の目から見ても、そう仲よさげには見えない、微妙な夫婦だった。大概の夫婦は、もしかしたらそんな風なのかも知れないけど。喧嘩もしないけど、寄り添って見せもしない。
病室で父から口汚くののしられたという話を母から聞いて、私は病気が長くなると身体だけではなく、こころもむしばまれるのだな、と、しみじみ思ったりしていた。なかなか思うように病が回復してくれないとか、身体が思うように動かないとか、そういう不自由さは、病人の心をすさませる。ほかの病人の様子も見て、そんな風に思ったものだった。そして、父と母という一組の夫婦の人生のことなんかも考えて、少し沈んだ気持ちにもなった。
今回、電話で母から「昔寒い時期になると足がとても冷えるから、お父さんの蒲団に足を入れて、ぴったり足をつけさせて貰って、暖めて貰っていたんだよね」という話を聞いて、私は「ああ、そういうところもある夫婦だったんだ」と思ったのだった。
おそらくそういうのは、兄弟の誰一人知らない、父と母の二人だけの秘密だったんだろうけども。それきいて、ちょっとほっとしたりした。
人生悪いことばかりじゃないよな。やっぱり。