- 作者: 高村薫
- 出版社/メーカー: 毎日新聞社
- 発売日: 1997/12/01
- メディア: 単行本
- 購入: 2人 クリック: 12回
- この商品を含むブログ (83件) を見る
最近は『新潮』の立ち読みも始めてしまい、すっかりはまってしまっている。
なんというか……、これまでの三作の中では一番読み応えがあって面白かったと思うのだけど、「どのへんが?」と言われると、「からまりぐあいが」というしかないような気がする。
事件と事件の、人と人の絡まり具合が遠いようで近い、絶妙な距離感をもちつつゆるゆると絡まり合っているような気がする。
レディ・ジョーカーチームの中では、ヨウちゃんがとても高村薫っぽいキャラクターに思われて、良かった。
興味深かった点
- 合田の半田に対する嫉妬というか、劣等感というか。自分の持っていないものを半田は持っている、と、合田は思いこんで、半田になくて自分にあるものはなんだろうと、一生懸命考えた結果、「オレはヴァイオリンが弾ける」とか思っちゃうところ。だからといって大して上手いわけでもなく、これも長続きしないんだけども。『照柿』*1を読んだあとだと、合田の半田に対する性的な劣等感がなんだか面白い。
- 加納が合田に冷たいわけ。加納は盛大に落ち込んだ時に合田の家に逃げ込み、弱音を吐いて叱咤激励されるのだけど、加納は合田が自分の所へ逃げ込んできても、ティッシュ箱を置いたきり一人にしてしまう。それは彼なりの優しさもあるのだろうけども、それだけではなくて「聖人ではない」からかもしれない。この時合田に対する感情を腹に納めるためには、その場に寄り添うようなことは出来ないのではないだろうか、とか思った。根来と加納と合田が三人で会った場面で、根来が目撃した加納の暗い目などを思い起こすと、そんな気がする。
- 城山社長の秘書野崎女史のスカートについて。異物混入ビールが出て、てんてこ舞いの日、合田が気付いても言わなかった、彼女のスカートの後ろファスナーのずれを、白井副社長が帰り際に指摘するのがちょっと面白かった。その日いかに彼女が忙しかったか、ということだよね。
- 半田の最後の方。精神鑑定云々は身内を適切に処置するために警察と検察で示し合わせてのことのような気がするけれども、「自分と周囲との間に膜がある」という描き方などを見ていると、境界例の症状を思い出したりした。
いま新潮でやっている『太陽を曳く馬』では、合田は本庁で係長やってるみたいなんだけど、加納はどうやら検事をやめて判事になっているらしい。合田と距離を置きたくなったのか、はたまた検察組織にほとほと愛想が尽きたのか。『レディジョーカー』の後半を見ていると、個人的には、根来に関する一件で、検察にはもう見切りを付けたくなったのかな、という気がした。
*1:一大決心をして誘った女とやり損なう