お蔵だし
ずっと前に書いたオガシラ少年時代の試作品。タイトル無し。
※話の中身は可愛いもんですが、下品な言葉も出てきます。
tryしたい方は下へどうぞ。
院生研修が終わった後、緒方が控え室に入っていくと、仲間達がなにやら頭を寄せ合うようにしているのが見えた。その中に白川の外巻きカールも見えたので、緒方は何ごとかと彼らの方へ近寄っていった。
後ろからそっと覗き込むようにすると、彼らはアイドル系のグラビア誌を見ているようだった。こそこそと話をしているところを見ると、大体話の内容が知れた。
「何見てんの?」
不意に緒方が声をかけると、一同は身体を震わせて驚いていた。
「なんだ。緒方か」
「何してんだよ」
「ええ……?」
顔を赤らめるもの、ニヤニヤするもの、顔を強ばらせるもの……反応は様々である。彼らは少しだけ隙間をつくって緒方を迎え入れた。
「いや……。誰が可愛いかって話でさ……」
「ふうん」
ズリネタ自慢か、と彼は思った。
「そういえば緒方って、誰のファン?」
「だれ?」
「アイドルとか」
彼はそう訊かれて考え込んでしまった。そんなことは考えたこともない。そのころ彼は塔矢名人宅に下宿中だったが、名人宅ではNHK以外のチャンネルはめったにかからないため、彼は歌番組などとは無縁の生活をしていた。
「この中だと誰が好き?」
雑誌を渡された彼は、パラパラと一通りめくった後に、「別に。かわいけりゃどれでもいい」と言って雑誌を返した。「おお……!」と、どよめきが起きる。
「緒方の好みって、どんなんだよ。一回も聞いたことねぇけど」
「好み?ない」
「またまたぁ」
「だって、ちょっと可愛くて、やれればそれでいいじゃん」
その言葉にその場は凍り付いたようになった。
「……緒方、ちょっと」
彼は腕を引かれた。
「ここだけの話。緒方ってもう経験済み?」
小声で聞かれた。
「まあね」
さして面白くもない様子で、彼は言った。
「え?いつ?いつ?」
「さぁ。教えない」
「相手どんな人?」
「そんなこと教えられっかって」
「教えろよぅ」
「いやだね」
「あ、そうだ。緒方」
白川は突然大声でそういうと、がたん、と大きな音をたてて立ち上がった。勢い余って後ろに椅子が倒れそうになっていた。その場にいた全員が白川に注目していた。
「……なに?」
緒方も呆気にとられて白川の真っ赤な顔を見ていた。
「も、……森下先生から連絡頼まれてたんだ」
「ああ、そう」
緒方は自分に用だとは思っていなかった。
「いこ」
「え?オレ?」
「はやく」
白川は自分の鞄を取ると、緒方の腕を強く引いて歩き出した。彼は、エレベーターの前まで緒方を強引に連れて行き、ボタンを押した後でやっと腕を放した。
「いてぇよ。白川。なんだよ」
「……緒方の馬鹿」
白川がぼそりと呟いた。
「は?なに?」
「……なんでもない」
緒方が何を聞いても、白川はそれきり俯いたままで何も言わなかった。