key of life

BL小説を書いたりしている江渡晴美の日記です。

遠い星

『遠い星・9』

十段戦は第一局を塔矢行洋がとり、第二局を緒方がとった。続く第三局は対局を目前にして塔矢行洋が倒れ、行洋の不戦敗となった。 心臓の発作で行洋が倒れた、というニュースが、会場となっていた長野のホテルにいた緒方の元へ届いたとき、彼の中でそれまで維…

『遠い星・8』

その内年が明け、新初段シリーズが始まった。 塔矢行洋との対局で初手に二十分使うという謎の行動をした進藤ヒカルは、緒方の興味をますます惹くことになり、伊角という名前はまた彼の頭の中から消えつつあった。 2月、彼は、十段戦の挑戦者に決定した。相…

『遠い星・7』

その年のプロ試験では、進藤ヒカルと「伊角」という二つの楽しみが出来た。 力のあるものは、必ず表に出てくる、と、緒方は思っている。評判が高くとも、表に出てこないものにはそれなりの理由がある。ヒカルと伊角は、果たして表に出てくるような力を持って…

『遠い星・6』

篠田の話から、「伊角」というのは、その内プロになるんだろうと緒方は思っていた。 院生一組で上位を維持するだけの力があれば、もういつプロになってもおかしくはない。緒方自身も割に早い時期にプロになっていたし、中学生でプロ入りというのも稀にある話…

『遠い星・5』

九星会の本校の建物は、成澤宅の離れというよりは、その一部のような作りになっている。おそらくそれは成澤自身の教室への移動が苦にならないように、という配慮からのものなのだろうと思われた。 緒方は成澤の本宅へ案内されたあと、短い渡り廊下を通り、本…

『遠い星・4』

緒方が初めて成澤と親しく話をしたのは、成澤の還暦を祝う会でのことだった。碁界の功労者である成澤の為に、同門の弟子達と同期の棋士たちが開いた祝賀会で、緒方はその時、師・塔矢行洋の代理として、明子夫人を伴っての出席だった。 緒方がプロになった頃…

『遠い星・3』

九星会は、「囲碁を学ぶことを通して社会人として望ましい人格を形成する」ということを主眼とした団体である。 主催者である成澤氏はプロ棋士であったが、体調を崩し、プロとして棋戦をこなすことが難しくなったために、引退後の人生を後進の育成に捧げよう…

『遠い星・2』

中国から帰国して数ヶ月後、彼はプロ試験に合格した。 全勝だった。 その年の受験者の中には、元学生三冠などもおり、もちろん院生時代の仲間達も含まれていたのだが、昨年とは違い、あまり無駄な気負いや拘りを持つことはなくなっていた。見つめるのは盤面…

遠い星1

帰ってきてしまった。 リムジンバスが成田空港の乗り場から走り出した途端にそう感じていた。 車窓から見える町並みは、二ヶ月の間に馴染みかけた北京のものとは随分違う。懐かしいはずの風景なのに、何処か身にそぐわない感じがして、彼はしばらくの後にそ…